女性は妊娠するとホルモンバランスが崩れ、身体だけでなく精神面での変化もみられるようになり、生活環境も変わってきます。妊婦の特徴的なお口の症状に妊娠性歯肉炎があります。重症化して重度歯周病に罹患すると、早産や低体重児出産のリスクを高める可能性があります。一方では、口腔管理を行うことで生まれた子供の口腔環境を整える事ができることから、妊婦の口腔管理や歯科治療が重要だと言われています。
妊婦って歯科治療できるの?
胎児への影響を心配して、妊娠中に歯科治療が出来るか不安を抱えている方は多いのではないでしょうか?
妊娠初期(0~15週) | 特に4~7週は催奇性の可能性が高い。できるだけ対症療法を行う。 |
妊娠中期(16~27週) | 母子ともに安定期の為、妊婦が健康であれば簡単な外科処置も行うことができる。 |
妊娠後期(28週~) | 増大した子宮の周辺臓器への圧迫が現れる為、体調に合わせた治療計画が必要になる。 |
歯科用レントゲン撮影の影響
歯科用X線撮影は、腹部から離れており、防御用エプロンを着用することから胎児への影響はほとんどないと言われています。日本で一年間に浴びる自然放射線量は約1.5ミリシーベルトです。デンタルは約1/150、パノラマは1/50に相当すると言えます 。また、デジタル X 線装置では、従来の撮影での1/2~1/10 に、防護エプロンの使用で1/100 程度減弱されるため、限りなくゼロに近くなります。
局所麻酔・薬の影響
歯科治療に用いられる局所麻酔薬は、妊娠中においてほぼ使用可能です。しかし、血管収斂薬(フェリプレシン)が含まれる麻酔薬に軽度の子宮収斂作用と分娩促進作用があるため、妊娠後期での使用は避けた方が良いとされています。
薬剤については、比較的危険が少ないとされるペニシリン系やセフェム系抗菌薬、解熱鎮痛薬アセトアミノフェンを必要最小限の投与をすることがあります。
妊娠性歯肉炎
妊娠性歯肉炎は女性ホルモンの影響によるものと考えられます。
妊婦の約70%に見られる歯肉炎で、特に前歯に多く妊娠初期から現れます。
原因は妊娠による口腔内の変化
① 歯肉が赤く腫れ、出血しやすい
② 唾液の粘りが増し、分泌量が減少する
③ 唾液のpHが低下し抗菌・自浄作用が低下する
④ つわり等によるブラッシング不足
⑤ 食習慣、嗜好の変化と偏り
妊婦の歯を守り、子どもの歯を守る
妊婦のミュウタンス菌(むし歯菌)は唾液を介して子どもに伝搬する為、妊婦自身の虫歯を治療し菌を減少させておくことが大切です。妊婦のプラークコントロールは、自身の口腔の健康を保つために、また子どもへの感染を少なくするためにも必要不可欠なものです。
歯科治療に不安をお持ちの妊婦の方、胎児への影響に不安をお持ちの妊婦の方、妊娠時期や体調に合わせて治療を行われるように、歯科医院へご相談下さい。
執筆者 歯科衛生士 中野まち子